概要
政府は新型コロナウイルスの感染拡大で急激に悪化した雇用保険財政を巡り、財源が逼迫するなど緊急時には国費を投入できるルールの恒久化を検討する。
現在は法律で時限的に可能にしているが、2021年度で期限を迎える。
雇用保険を通じた失業手当の給付は雇用のセーフティーネットの役割を果たしており、将来の新たな感染症や経済危機などに備える必要があると判断した。 厚生労働省の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の部会で議論し、21年末までに結論を出し、 22年の通常国会に提出する雇用保険法改正案に盛り込む方向で調整する。
雇用保険の目的
雇用保険は保険料を労使が折半する「失業等給付」と「育児休業給付」、企業側が保険料を負担する「雇用保険2事業」(雇用安定事業・能力開発事業)に分けられる。雇用保険2事業のうち雇用安定事業には、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合において企業が払う休業手当の一部を助成する雇用調整助成金などがある。
雇用保険の財源問題
コロナ禍で雇調金の支出が大幅に膨らみ、失業等給付の積立金から資金を借り入れて財源不足を賄った結果、雇用保険の財政が急激に悪化している。
本来、この積立金は、雇用・失業情勢が悪化した際にも安定的な給付を行うため、好況期に積み立て、不況期にこれを財源として使用するものであり、いわばビルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置)機能を有する
雇用保険料は、特別会計で運用されており、現状のままだと過去最大で約6.4兆円あった失業等給付の積立金が21年度末に約4千億円まで減る見通し。雇用保険2事業の積立金は20年度末でゼロになった。そこで政府は21年度補正予算案で雇用保険の追加財源として一般会計で約2.2兆円を計上する。
政府はコロナ対応で雇調金の財源として約1.1兆円の国費を投じてきた。これは20年の通常国会で成立した臨時特例法で一般会計から雇用保険への資金の繰り入れが可能になったためだ。
恒久化に向けた仕組みづくり
この仕組みは21年度で期限が切れる。将来的に再び財源が逼迫すれば、そのたびにルールを整備する必要があるため、コロナ禍を契機に国の責任の範囲を明確化し、危機時には国費投入できるルールを恒久化することを検討している。具体的にどの程度まで財政状況が悪化すれば危機だと判断して一般会計から財源を投入するのかなど、仕組みづくりが必要になる。
仕組みづくりを行う上での課題
厚労省は22年度から労使が負担する雇用保険料率を引き上げる方針で部会で議論を進めている。政府内には失業等給付の保険料率を労使合わせてで賃金の0.2%から0.6%程度まで引き上げる案がある。失業給付の本来の国庫負担率は支給額の25%だが、コロナ禍前まで財政に余裕があったことから現在は2.5%まで引き下げられている。この国庫負担の扱いも焦点だ。労使には国庫負担を相当程度引き上げるべきだとの意見が強い一方、財務省は引き上げに慎重だ。国費投入のルールの恒久化も含めて年末に向けた主要な論点になる。
守りから攻めの雇用政策の拡充
雇調金はコロナ禍での雇用を守るうえで効果を発揮した半面、成長分野への労働力シフトの足かせとなる副作用も指摘されている。雇調金を段階的に縮減し、IT(情報技術)など成長分野や医療・介護など人手不足の分野への転職を促したり、スキルアップへ働きながら学べる環境を整備したりするなどの政策の拡充も欠かせない。
日経新聞11月27日記事より引用