概要
本日の日経新聞の記事によると、政府は今夏にも企業に対し、従業員の育成状況や多様性の確保といった人材への投資にかかわる19項目の経営情報を開示するよう求めるとのことです。企業が従業員について価値を生み出す「人的資本」と捉えて適切に投資しているかを投資家が判断できるようにします。うち一部は2023年度にも有価証券報告書への記載を義務付けます。開示を通じて人材への投資を促すことで無形資産を積み上げ、日本企業の成長力を高めます。
人件費に対する考え方の変化
日本では、過去に自動車産業の製造ラインでの作業などが多かったことから、人件費をコストと捉える傾向がありましたが、今は経済のデジタル化が進み、従業員が生むアイデアが企業に利益をもたらすことから、ただコストとして認識するのではなく、人的資本と捉える必要があります。
企業が人材にどう投資しているかは、財務諸表の数値だけでは読み取れず開示機運が高まっています。
政府の指針
内閣官房は今夏にも、人的資本への投資を企業がどのように開示すべきかの指針を作る予定です。6月中にまとめる骨子案では、投資家に伝えるべき情報を19項目に分けて整理するようです。主な項目は従業員のスキル向上などの人材育成や多様な背景を持つ人材の採用状況などです。
企業には自社の戦略に沿う項目を選び、具体的な数値目標や事例を公表するよう求めます。例えば多様性を示す従業員の男女比や人種、女性役員の比率などは、企業ごとの差を測れるように具体的な算出基準の開示を促します。企業によって異なる従業員の研修方法などは、できるだけ具体的な事例を記載してもらうようです。
欧米の状況
欧米は人的資本の情報開示が進んでいます。米国では米証券取引委員会(SEC)が20年8月、企業に対して人的資本にかかわる情報開示を義務づけました。企業がそれぞれ重視する指標や、その目標値の開示を求めています。欧州連合(EU)は14年、従業員500人以上の企業を対象に開示を義務化しています。
日用品の米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は21年のアニュアルリポートから開示を始めました。消費財を扱う企業は多様な顧客のニーズに応えることが重要としたうえで、米国の経営層で40%を多様な文化的背景を持つ人材にするという目標を記載しました。
日本の状況と今後の変化への期待
現状では投資家の要求水準を満たす日本企業は少なく、人的資本への投資の遅れは、日本企業が競争力を失う一因となっています。知的資産の評価を手掛ける米オーシャン・トモによると、20年の主要企業の時価総額から有形資産の評価額を引いた額を無形資産の価値と考えると、米国はこの比率が90%を占め、日本は32%にすぎませんでした。米企業は人材への投資で無形資産を積み上げ、株価を上げている。
岸田文雄首相は21年12月の所信表明演説で「人材投資の見える化を図るため、非財務情報開示を推進する」と述べました。
デジタル化社会が進み従業員の持つアイデアが高収益を生み出す可能性が高いことから日本政府における取組に注目が集まります。
日経新聞2022年5月14日より引用