モデル就業規則例
(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合
モデル就業規則の規定の解説
- 本条は、副業・兼業に関するモデル規定であり、就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとしなければならないことから、副業・兼業の導入の際には、労使間で十分検討するようにしてください。副業・兼業に係る相談、自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いをすることはできません。この「副業・兼業」については、他の会社等に雇用される形での副業・兼業のほか、事業主となって行うものや、請負・委託・準委任契約により行うものも含むことに留意が必要です。なお、労働契約であるか否かは実態に基づいて判断されます。労基法の労働時間規制、安衛法の安全衛生規制等を潜脱するような形態や、合理的な理由なく労働条件等を労働者の不利益に変更するような形態で行われる副業・兼業は、認められず、違法な偽装請負の場合や、請負であるかのような契約としているが実態は労働契約だと認められる場合等においては、就労の実態に応じて、労基法等の規定の適用を受けることになります。
- 労働者の副業・兼業について、裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であることが示されていることから、第1項において、労働者が副業・兼業できることを明示しています。なお、どのような形で副業・兼業を行う場合でも、過労等により業務に支障を来さないようにする観点から、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましいです。
- 労働者の副業・兼業を認める場合、労務提供上の支障や企業秘密の漏洩がないか、長時間労働を招くものとなっていないか等を確認するため、第2項において、労働者からの事前の届出により労働者の副業・兼業を把握することを規定しています。特に、労働者が自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合には、労基法第38条等を踏まえ、労働者の副業・兼業の内容等を把握するため、次の事項を確認することが考えられます。
- 他の使用者の事業場の事業内容
- 他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容
- 他の使用者との労働契約の締結日、期間
- 他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
- 他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
- 他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続
- これらの事項について確認を行う頻度
- 裁判例では、労働者の副業・兼業について各企業の制限が許される場合は、本条第2項各号で規定したような場合であることが示されていると考えられます。各号に該当するかどうかは各企業で判断いただくものですが、就業規則の規定を拡大解釈して、必要以上に労働者の副業・兼業を制限することのないよう、適切な運用を心がけていただくことが肝要です。また、第1号(労務提供上の支障がある場合)には、副業・兼業が原因で自社の業務が十分に行えない場合や、長時間労働など労働者の健康に影響が生じるおそれがある場合、労基法第36条第6項第2号及び第3号に基づく時間外労働の上限規制(時間外労働及び休日労働の合計の時間数について、1か月100 時間未満及び2~6か月平均 80 時間以内とすること)や自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第7号)等の法令等に基づく使用者の義務が果たせないおそれがある場合が含まれると考えられます。裁判例でも、自動車運転業務について、隔日勤務に就くタクシー運転手が非番日に会社に無断で輸出車の移送、船積み等をするアルバイトを行った事例において、「タクシー乗務の性質上、乗務前の休養が要請されること等の事情を考えると、本件アルバイトは就業規則により禁止された兼業に該当すると解するのが相当である」としたものがあることに留意が必要です(都タクシー事件 広島地裁決定昭和59年12月18日)。なお、就業規則において、副業・兼業を行うことや、その内容・労働時間等についての労働者からの届出を定めていた場合に、労働者から届出がなされずに副業・兼業が行われたことを把握したときについては、まず、労働者に届出を求め、第2項各号で規定したような場合に該当しないかの確認や、該当しない場合であって労働時間の通算の対象となるときにおいては、他の使用者の事業場における所定労働時間等の確認を行い、適切に、労働時間の管理を行いつつ、労働者が副業・兼業を行うことができるようにすることが望ましいです。
次回以降は、兼業、副業で争われた裁判をご紹介していきます。
(厚生労働省 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」わかりやすい解説より抜粋)