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パート・有期法の改正の 経緯と概要
平成30年に成立した働き方改革 関連法により、パート・有期法は雇用形態にかかわ らない公正な待遇の確保を目指して改正されました。 改正のポイントは次の3点です。
正社員とパートタイム・有期雇用労働者と の間における不合理な待遇差の禁止
同一企業で働く正社員(通常の労働者)と非正規 雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者) との間で、基本給や賞与、手当、福利厚生などあら ゆる待遇について、不合理な差を設けることが禁止 されています(パート・有期法第8条)
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
法改正により、事業主の説明義務が強化さ れています。 事業主は、非正規雇用労働者から、正 社員との待遇差の内容や理由について説明を求めら れた場合には、説明をしなければなりません(パー ト・有期法第14条第2項)
裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
企業の雇用管理に関する紛争などは、当事者であ る労働者と事業主との間で自主的に解決されること が望ましいものですが、パート・有期法で事業主に 義務づけられている事項に関する紛争については、 都道府県労働局長による紛争解決の援助(行政ADR) と第三者機関である紛争調整委員会による調停の仕 組みが設けられています。
いずれも無料・非公開の 手続です(パート・有期法第24条、第25条)。 各企業においては、まずは、正社員と非正規雇用 労働者との間で待遇に違いがあるかどうかを確認し、 違いがある場合には、待遇ごとに「不合理でない」と 説明できることが大切です。。
待遇の見直し に当たっては、労使でよく話し合うことが重要です 。
法律のポイントと考え
均等待遇と均衡待遇
- 均等待遇
正社員と職務の内容(業務の内容及び責任の程度)が同じ非正規雇用労働者であって、職務の内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組みや運用など)が同じであることが見込まれる場合には、その非正規雇用労働者は均等待遇規定の対象となります。
基本給や賞与、手当などすべての待遇について正社員と同じ取扱いをしなければなりません。
なお、この場合、待遇の取扱いが同じであっても、個々の労働者について、
意欲、能力、経験、成果等を勘案することにより賃金水準が異なることは、正社員間においても生じうることであって問題となりません。
- 均衡待遇
正社員と職務の内容や職務の内容・配置の変更範囲が異なる場合には、均衡待遇規定の対象となります。
①職務の内容、②職務の内容・配置の変更範囲、③その他の事情(職務の成果、能力、経験、労使交渉の経緯など)のうち、基本給や賞与、手当等個々の待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる待遇差を設けてはなりません。
均衡待遇における不合理性の考え方
均衡待遇規定に該当する場合、個々の待遇ごとに、正社員と非正規雇用労働者との間で差があるか、差がある場合はそれが不合理ではないかを確認します。
「待遇」には、基本的に、すべての賃金、教育訓練、福利厚生施設、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等のすべての待遇が含まれます。 このそれぞれの待遇について、性質・目的を踏まえ、前記3つの考慮要素のうち適切と認められるものを考慮して、不合理か否かを判断することとなります。
正社員と非正規雇用労働者の待遇差のうち、具体的にどのような差が不合理であるかについては、最終的には司法判断となります。
しかし、裁判上の争いになる前に、不合理と認められる可能性のある待遇差は見直しをしておくことが望まれます。 まずは待遇差が不合理でないことが具体的に説明でき、労働者も納得できるものであるかを点検しておく必要があります。 「パートだから」、「将来の役割期待が異なるので」といった、主観的・抽象的な理由では、不合理でないことを説明するには不十分です。
正社員との待遇差が不合理とされた具体例として、旧労働契約法第20条に関し正社員と有期雇用労働者との間の待遇差の不合理性が争われた最高裁判例が参考になります。
いずれも個別事案の判決であり事案によって異なる判断となる可能性がありますが、 特にこれまで不合理と判断されたことのある待遇については、それぞれの企業に当てはめたときに同じ判断理由となりうるか、あらかじめ検討しておくこ とが望まれます。
また、「同一労働同一賃金ガイドライン」では、不合理な待遇差の解消に向けた原則となる考え方や具体例が示されています。 このガイドラインも参照しながら点検や見直しを進めます。
なお、教育訓練については、正社員に対して職務の遂行に必要な能力を身につけさせるための教育訓練を実施している場合には、すでにそのような能力を有している場合を除き、正社員と職務の内容が同じ非正規雇用労働者に対しても実施されなければなりません(パート・有期法第11条第1項)。
また、 福利厚生施設のうち、給食施設、休憩室及び更衣室の3施設については、正社員に対して利用の機会を与える場合に、非正規雇用労働者に対しても利用の
機会を与えなければなりません(パート・有期法第12条)
比較対象労働者の考え方
待遇の均等・均衡を図る上では、企業内のすべての正社員と比較することが必要です。
ただし、複数 の正社員区分がある場合は、まずは職務内容等が非正規雇用労働者と最も近い正社員から検討を始めるとよいでしょう。
また、非正規雇用労働者から、正社員との待遇差の内容や理由について説明を求められた場合には、 職務の内容、職務の内容・配置の変更範囲等が、非正規雇用労働者に最も近いと事業主が判断する正社員と比較し、説明することとなります。
この比較対象労働者を選定するに当たっては、次の順により「近い」と判断することが基本となります 。
- 「職務の内容」及び「職務の内容・配置の変 更範囲」が同一である正社員
- 「職務の内容」は同一であるが、「職務の内 容・配置の変更範囲」は同一でない正社員
- 「職務の内容」のうち、「業務の内容」又は 「責任の程度」が同一である正社員
- 「職務の内容・配置の変更範囲」が同一であ る正社員
- 「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更範 囲」のいずれも同一でない正社員(職務の内 容が最も近い正社員を選定することが考えら れます)
その上で、同じ区分に複数の労働者が該当する場 合には
- 基本給の決定等において重要な要素(職能給であ れば能力・経験、成果給であれば成果など)における実態
- 説明を求めた非正規雇用労働者と同一の事業所に雇用されるかどうか
等の観点から、比較対象労働者をさらに絞り込むことが考えられます。 いずれの観点から絞り込むか は事業主の判断ですが、その選択した観点において、 非正規雇用労働者と最も近いと考える者を選定することになります。 待遇差の内容・理由の説明に当たっては、比較対象として選定した正社員及びその選定理由についても説明する必要がありますが、個人情報の保護の観 点から、説明を受けた非正規雇用労働者において、 比較対象となった正社員が特定できることにならな いように配慮することも必要です。 比較対象として、 正社員の標準的なモデル(新入社員、勤続3年目の 一般職など)を選定することも可能です 。
待遇差の説明
パート・有期法では、非正規雇用労働者の求めが あった場合に、通常の労働者との間の待遇差の内容 やその理由について説明することが義務化されます。
- 説明内容
「待遇差の内容」は、
①正社員と非正規雇用労働 者との間で待遇の決定基準に違いがあるか否か
② それぞれの待遇の決定基準等について説明する必要 があります。
また「待遇差の理由」は、職務の内容、職務の内 容・配置の変更範囲、その他の事情に基づき、客観 的・具体的に説明する必要があります 。
また「待遇差の理由」は、職務の内容、職務の内 容・配置の変更範囲、その他の事情に基づき、客観 的・具体的に説明する必要があります 。
- 説明の方法
説明義務は、非正規雇用労働者が、自身の待遇に 対する納得性を高め、その有する能力を十分に発揮 できるようにする観点から設けられているものです。
そのため、説明に当たっては、非正規雇用労働者が その内容を理解できるよう、就業規則や賃金規程等 の資料を活用し、口頭により行うことが基本です。
ただし、説明すべき事項をすべて記載した、非正規 雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる 場合には、その資料を交付する等の方法でも差し支 えありません。 その場合にも、非正規雇用労働者か らの質問には、誠実に対応することが必要です。
- 説明に当たっての留意
非正規雇用労働者が説明を求めたことを理由とし て、当該労働者に対して解雇や配置転換、降格、減 給、労働契約の更新拒否等の不利益な取扱いをしてはなりません(パート・有期法第14条第3項)。 待遇等に関する相談窓口などを整備すること等により、 非正規雇用労働者が不利益な取扱いを受けることを恐れることなく説明を求めることができるような職場環境としていくことが望まれます。
なお、非正規雇用労働者から求められればその都度説明しなければならず、1回説明すればよいというものではありませんが、非正規雇用労働者が納得するまで説明を求めるものではありません 。
各種支援について
厚生労働省の手引き等は次のとおりです。
- パートタイム・有期 雇用労働法対応のための取組手順書
- 業界別の 「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュア ル」
- キャ リアアップ助成金
- 「働き方改革推進支援センター」で、不合 理な待遇差の禁止に関するセミナー開催や専門家派 遣による相談対応など
- 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)でも、法令 など問い合わせ対応
最後に
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)が昨年4月1日に施行され、今年の4月から中小企業に対しても施行されています。
未対応の事業者の方は上記を参考に、対応をご検討いただければ幸いです。
月間社労士2021年2月号より抜粋・編集